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宇都宮家庭裁判所 昭和50年(少)1838号 決定 1976年10月29日

少年 Y・J(昭三五・一一・二三生)

主文

少年を字都宮保護観察所の保護観察に付する。

本件に付き、証人四名及び参考人二名に支給した旅費及び日当(合計一七、二一〇円)は、少年の扶養義務者Y・H、同Y・T子からこれを徴収する。

理由

(非行事実)

少年は

一  昭和五〇年八月一日午後〇時三〇分ころ、栃木県鹿沼市○○町××××番地のボーリング場「○○パークレーン」附近路上において、通行中の○木○子(当一〇年)を認め、同女に対し「ボーリング場の入口はどちらですか。分りにくいから一緒に行つてくれ。」等と云つて右ボーリング場の入口を案内させ、右ボーリング場の東側敷地に至るや、同所でいきなり背後から同女の口を押えて抱き留め、所携の長さ約二〇センチメートルの折たたみ式刄物ようのものをその首筋に押し付け、「着ているものを脱げ。死にたいんか。」等と申し向けて脅迫し、同女を全裸にさせたうえ、自己の陰茎をなめさせ、もつて強いて猥褻の行為をなし

二  同月一四日午後一時一五分ころ、同市○町××××番地の○○市立○小学校南門前路上において、同所で友人と待合せ中の○西○江(当一二年)を認め、同女に対し「すみませんが○○はどこですか。押ボタンの信号機のところまで知つているんだが。」等と云つて○○会館への案内を求めたが、同女がこれを拒絶するや、いきなり背後から同女を抱き留め口を押え付けて「静かにしな。」と云つて、同所から約七二メートル離れた同市○○町××××番地の材木置場に連行し、同所で「ナイフを持つているから声を出すと刺しちやうぞ。僕だつて殺したくないんだから騒ぐな。」等と申し向けて脅迫し、更に手拳で同女の顔面を殴打する暴行を加えシミーズの上から同女の胸部をなでまわしたり、パンテイーに手を入れようとしたりし、もつて強いて猥褻の行為をなし

三  前項の日時に前記材木置場において、少年の暴行・脅迫により前記○西が畏怖しているのに乗じて、同女所有の現金一、〇〇〇円及び図書館の貸出カード一枚を交付させてこれを喝取し

たものである。

(補足説明)

上記本件非行事実は、送付に係る一件記録並びに証人○口○二、同○崎○雄、同○木○子、同○西○江の当審判廷における各供述によつてこれを認めることができる。

少年は、当審判廷において、本件非行を極力否認するけれども、被害者である○木○子、○西○江の被害状況並びに犯人に関する各供述は具体的且つ詳細であつて、捜査及び審判の各過程を通してほぼ首尾一貫しており、同女らが虚実を混同したり、殊更に事実を捏造したりした形跡は毫も窺われないのみならず、他の証拠とも符合し、その信用性に疑いを容れる余地は全くなく、少年が本件非行を犯したものであることは明らかである。

なお付言すると、少年は、本件非行後の昭和五〇年八月一九日、○○警察署に於て身柄不拘束のまま被疑者として初めて取調べを受けた際、本件一・三の非行の一部を自白し、そのうち一の非行に付いてはその旨少年の供述調書(実母と共に署名指印)が作成されたが(少年は、当審判廷において、右自白は取調官から、否認すれば殴られんばかりにして嚇されたため、止むなく虚偽の事実を供述した旨述べるが、右自白が少年が述べるが如き事情その他強制下になされたとは認め難いものである。)、その後の捜査の過程では一転し、本件非行全部を終始否認しており、また本件少年調査記録中の経過一覧表及び少年調査記録の記載に徴すると、同五一年二月三日、当庁家庭裁判所調査官の調査の際、実母と共に出頭した少年は、本件一・二の非行に付いては否認し、三の非行に付いては自認していたことが窺われる。

(適条)

少年の本件一・二の各非行は、刑法一七六条の強制猥褻罪に、同三の非行は同法二四九条一項の恐喝罪にそれぞれ該当する。

(処遇)

本件非行は前記の通り極めて悪質であつて、少年は、本件以外にも同じころ、九歳の少女を小学校の便所に連れ込み、水着を脱がせて陰部を弄ぶ等の強制猥褻行為に及んでおり(右に付いては告訴がなく立件されていない。)、これら被害者の受けた精神的衝撃は云うに及ばず、この種事犯が幼女を持つ世の親に与える深刻な不安ということを考えれば、少年の非行は強く責められてしかるべきであつて、少年もまた自己の非を卒直に認めて反省悔悟の情を示すべきであるに拘らず、前記の通り捜査及び調査の過程で一旦は非行の一部を認めたものの、審判においては終始非行を否認し続けたものである。

少年の知能はIQ九七で普通域にあるが、性格は自我防衛意識が強く、偽善的で内省や自己批判力に欠け、社会性や自我の独立性がみられず、情意面では人格的に二重構造が認められ、また保護者である実父母は、いずれも少年を過信盲愛し、過剰なまでの庇護態度に終始していて、少年に対する監護に適切を欠くところがあり、本件非行の要因はかかる性格・環境にあると考えることができるのであつて、少年は前記九歳の少女に対する強制猥褻を含め本件以外には今日に至るまで別段の非行は見受けられず、現在は(非行時中学三年生)将来理容師となるべく理容学校に通学していて一応の社会生活は営んでいるものの、少年の前記性格の矯正、環境の調整をなし、少年に社会性・自主独立性を涵養するには、前記諸般の事情に照らし、少年及び保護者のみに今直ちに全てを期待することは困難なものと認めるべく、この際少年に一般社会生活を営ませつつ、矯正保護の専門機関たる保護観察所の指導・調整を受けさせることが、少年の健全な育成のため最も妥当な措置であると考える。

(なお少年は現在有職者でなく、また本件非行に付いては前記の通り保護者である実父母の少年に対する監護態度にも起因しているところ大であると考えられるから本件で証人及び参考人に支給した旅費・日当を少年の扶養義務者である実父母に負担させるのが相当である。)

よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項、少年法三一条一項により主文の通り決定する。

(裁判官 桜井登美雄)

別紙 証人・参考人に支給した旅費・日当明細書

出頭者氏名

出頭年月日

請求年月日

支給年月日

旅費日当頭

備考

日当

旅費

証人  ○口○二

51.6.4

51.6.4

51.6.4

2,400

230

2,630

証人  ○崎○雄

51.6.4

51.6.4

51.6.4

2,400

230

2,630

証人  ○木○子

51.8.30

51.8.30

51.8.30

2,600

545

3,145

参考人 ○木○の

51.8.30

51.8.30

51.8.30

2,600

545

3,145

証人  ○西○江

51.8.30

51.8.30

51.8.30

2,600

230

2,830

参考人 ○西○

51.8.30

51.8.30

51.8.30

2,600

230

2,830

小計

15,200

2,010

合計

17,210

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